番外編:梨畑の除染(粗皮削り)体験 福島市・阿部農園2012年12月

神奈川を中心に、日本の農業と、農産物の流通における、明るい話題と暗い話題を素朴にお届けする「今月のやさい」。

今月は、番外編です。福島県福島市の梨畑からお送りします。



2012年11月、福島市内にある梨農家「阿部農園」を訪問しました。

収穫を終えたこの時期は、来年に向けて400本の梨の木の剪定作業が行われていました。12月には雪が降りますが、剪定作業と、その後に枝を棚に結びつける「棚結い」作業は花の時期まで続くそうです。阿部農園でも2011年3月の福島第一原発事故の放射性物質の被害を受けました。棚結い作業をしていた最中の地震と事故でした。2011年は、ご主人が先代の後を継いで20周年にあたる年だったそうです。

私たちは、阿部一子さんの自宅でお話を伺ったあと、2012年1~3月に実施した、除染のための粗皮(そひ)削り作業を体験しました。

粗皮(そひ)削り~本来は害虫対策などで行う作業だが、冬季の重労働なので余裕がないとできない。数年~10年に一度行う農家が多いとも言われている。

JAの指導によって行われた粗皮(そひ)削り作業の目的は、農作業従事者の空間被ばく防止と、果実への放射性セシウムの残留防止。専用の器具を使い、木の幹と水平に動かすとボロボロと削り落とすことができるが、樹皮が細かい粉状になって飛び散ります。もっとも寒い時期、雪の中で、防寒具の上に内部被ばく防止のためのカッパ、ゴーグル、マスクを装着して行ったといいます。友人たちが手伝いに来てくれた日もあったが、400本の木の皮を1本ずつ削る作業には2ヶ月を費やしました。

これによって畑の空間線量は下がり、2012年の果実の放射性セシウムの残留も、2011年の8~13ベクレル/kgから、約5ベクレル/kg前後まで下がりました(梨の品種により残留の数値は異なる)。検出限界10ベクレル/kgの測定器であれば、未検出となる数値(国内の多くの食品の測定で使われているのは検出限界10ベクレル/kgの測定器であろう)だが、より正確な数値を公表して、それでも良いと判断してくれるお客さんに買ってもらいたいと、あえて検出限界が1ベクレル/kgという測定器で測定し、数値を「おたより」に書いています。さらに注文された梨を送るときも、測定結果表のコピーを同封しています。
※)国内の一般食品の放射性物質(セシウム)の基準値は100ベクレル/kg

阿部さんの真摯な姿勢が伝わったのか、震災前と比べ1件あたりの注文量は減りましたが、そのぶん顧客数は増えました。かつて暮らしていた東京・横浜・大阪の友人たちの支えもあったといいます。

阿部さんは、震災前から原発やTPPの問題を深刻に受け止めて勉強し、自主流通先のお客さんや周囲の人に渡す「おたより」で積極的に情報発信を行っていました。

そんな中で、地震と原発災害に見舞われました。

阿部さん自身には4人の子どもと8人の孫がいて、お子さんはいずれも福島市内で所帯を持っています。この日は生後3週間の赤ちゃんを連れた娘さん夫婦が訪れていました。阿部さんの家に伺って、阿部さんの口から最初に出た言葉は、「ここで子ども育ててて、いいのかなぁ・・・って思いますよね」

20~30代の子どもを気づかう母、孫を気づかう祖母として、放射性物質の影響からは目が離せない1年と8ヶ月。阿部農園の「おたより」には、その悶々とした気持ちもつづられています。

阿部さんは昨年、福島市内で行われた原発についての集会に行った時、屋外での待ち時間に地面に腰を下ろそうとしました。すると、いわき市から来た参加者に「地べたに座っちゃだめよ!荷物も下に置いちゃだめよ!ここはフクシマなんだから!」と指摘されたと言います。原発事故による放射性物質による被害は事実ですが、普段暮らしているこの土地が、どこまで危険で、どこまで安全なのでしょうか。危険と安全を区切る線は、どこにあるのでしょうか。政府の安全基準が必ずしも安全ではないと考える人も多いでしょう。であれば、私たちは、それぞれが独自の基準で判断しなければなりません。

私たちの食品に含まれる身体によくないといわれる物質には、放射性物質のほかにも、農作物であれば残留農薬、家畜や養殖魚であれば成長促進剤として使われる抗生物質、加工品であれば化学調味料や食品添加物など、多くのものが考えられるでしょう。

食品の安全性を考えて食生活を送ることは、とても重要です。ただ、ひとつの視点だけではなく、現在流通している食品にはあらゆるリスクが潜んでいることを知り、総合的な判断をしていただきたいと思います。